栽  培  篇

 原生地の自然条件が,その植物の生育に好適なればこそ,原生地たり得たのであるが,しかし必ずしも,その条件が,必要にして充分のものであるとは限るまい。何故ならば,異境や栽培場で,多かれ少なかれ異る条件下であっても,原生地と同様或はそれ以上の成績を示す例は少なくない。それ故,栽培の施設や技術に努めても,到底,原生地なみの条件を与え得ないからとて,栽培を断念するのは早計である。又,植物が外的条件に,或範囲内では,耐えられる適応性に乗じて,作り切る可能性もある。要するに,原生地の敷き写しの必要はないが,無視するのは誤であり,栽培上の難関に際しては,郷土を振りかえるべきである。

 一般観賞植物でも,研究らしき研究を経て,栽培技術を与えられたものは,極めて少ない。女仙に,栽培論はあっても,栽培法なしは当然であろう。内外の文献で,栽培に関するものは貧弱極まる。

 女仙の栽培は,初めは,カクタスに準じて行われ失敗であった。カクタスの如く,蒸熱には耐えられないからである。従って,カクタスと同室するのを避けるのは常識である。

女仙温室の内部

この構造は,保温の点では合理的でも,空気交換の点では不合理。それでも,これを使いこなす処に園芸の技術がある。

 気 温

 空気は,熱に対し鈍感で,熱しにくく,冷めにくい。これに反し,植物体,鉢,土などは敏感で,熱しやすく,冷めやすい。従って,両者の温度を比較すると,昼間は,前者の方低く,夜間は,後者の方低い。

 昼間,植物体及びその周辺空気の温度は,相当の通風下でない限り,空気の対流による熱交換の効果は意外に弱く,上方の気温より高い。この点は,別項で述べる高気湿の問題とからみ軽視できない。女仙のように,地表に近接した気層中に埋没して生育する植物に対しては,このような極微気象的考察が必要である。

 女仙栽培には,昼夜の気温較差大なるをよしと認められてるが,これは,原生地の気象状況からして頷けよう。従って,冬期を除き,昼間は勿論,夜間も通風により,気温日較差を高く保つのが合理的である。

 適温は,15〜25°C位とされているが,春秋の候は,適当に通風しつつ,昼間,最高温が,これを越さないよう管理は容易である。夏期は,特に通風を最高度にし,遮光も深くして,気温の上昇を制御する。冬期は,寮地では,ムシロ,ビニールの類で防寒し,最低気温5°C位に保持できれば,生長は継続する。冬期,加温による生長促進は,有害無益である。暖地では,特に夜間の防寒はしないのが常識であるが,時に,寒波の襲来で,常識が通じないこともある。被覆材の用意がない時は,植物を覆う一重の新聞紙が,この厄を逃れるであろう。

 女仙は,低温にも抵抗力強く,極端の場合を除き,凍結しても殆ど回復する。深く日射を遮り,室温の上昇を抑え,徐々に解凍する。狼狽の挙句,日射にさらしたり,暖めたりして,業務上過失致死罪を犯すべきでない。凍死寸前の遭難者の処置と同様である。

群生株のある女仙温室

両端の扉を開き,天窓を開放すると,相当に換気と温度の調節が出来る。此の構造の室で群生株は美事に育っている。

 気 湿

 空気中に含まれ得る水蒸気の極量即ち飽和量は,気温により一定で,高温下のそれは,低温下のそれよりも大きい。気湿の高低は,飽和量に近いか,遠いかの意味である。

 昼間高温下,空中水蒸気が,遥かに飽和量よりも少ない乾燥状態も夜間低温下では,飽和量に近づき,湿潤状態に移行する。この傾斜は,早暁まで進行し,若し飽和量を突破すれば,結露が起きる。

 極度の低気湿が支配する砂漠砂漠地帯でも,夜露が見られる事実は,昼夜の気温較差が30°C以上にも達するから当然である。砂漠では,気温日較差と同じく,気湿日較差も著しいのが真相である。それ故,砂漠は,昼間こそ,暑く,乾いてるが,夜間は,涼しく,湿ってると見なければならない。

 高気湿は,適度であれば,植物の生長を促進し,過度であれば,徒長に導き,更に腐死の転機を招くことともなる。女仙の「空中溺死」の原因は,これである。硝子室内での花卉,蔬菜などの栽培では,潅水の量や頻度も多いから,正常な生育を期するためには,気湿の調節に,周到な不断の管理を必要とするものだが,これに比べると,女仙の栽培では,相成るべく低気湿さえ心掛ければよいから,気湿管理は,むしろ容易である。それだけに,安意に慣れての失敗がある。高気湿による異状な生長を,好成績と誤認することもある。カクタスでは,蒸し作りも,一応通じるが,女仙では,腐死への直行ともなりかねない。

 気湿も気温と同じく,女仙を包む気層では,余程通風のない限り,相当高いと考えねばならない。殊に,潅水後しばらくは,極めて高湿下に在ることに,注意を喚起したい。

 硝子室内での,他の植物の栽培に,用土には潅水せず,通路やベンチに撒水して,気湿を高かめ,生長の促進をはかることが行われてるが,この事実は,土湿と気湿とを,植物に対する影響について,明らかに区別した考慮から出ている。女仙の場合,高土湿による障害もあるが,高気湿によるそれを,高土湿によるとする誤認が一般である。土湿の高い時は,当然気湿も高くなる経緯は,特に,硝子室内では必然的であるので,かかる性急な結論を導く。高土湿を原因とする気湿の上昇を抑える唯一の方法は,通風のみである。

 通風は,土湿は勿論,気湿も低下させる。季節により,殊に潅水後に,通風は,気温の降下を意味するので,生長の遅延におびえて,これを躊躇する向きもあるが,結果の軽重いずれに在るかを考えたら,これは論外の態度といえよう。

リトープスのフレーム

作業や鑑賞には,いささか不便であるが,換気は思いの儘。ガラス面に近いので,球は丈低く,健康的に育つ。

 植物に対する高気湿の影響は,高気温下程著しい。ここに,通風が気湿,気温の二面で,効果を現わす。

 春から秋にかけては通風し,特に暑熱の候や潅水後には,開放を充分にすべきである。曇天下,又冬期でも潅水後の通風が合理的であって,密閉により気温を高く保持する事で,蒸発を早めるとするのが誤解であることは,温室内という一定体積の環境,蒸発に要する熱の動きの終始などに注目したら了解できる筈である。

 一般に,観賞植物では,多少とも多湿下で栽培され,ミズミズしいものを観賞価値高いとするが,女仙作りの名人の温室は,この理想に応じた,意外に,可なり高湿下に在る。そこに見るのは,将に崩れんとするものの美である。但し,その温湿度管理の美事さは,終始,定型の振幅の繰り返えしの妙技である。又可なり高湿といっても,初心者の技術では,低湿を一途に追って得られる程度のものであって,容易と思い込んではなるまい。

 別項で述べる如く,硝子室の構造,その周囲の環境が,室内を高湿に決定的である場合には,その管理には,余程の工夫努力が必要である。

 日 照

 冬期以外は,遮光により,室内に投射する日照を弱める。その程度は,日照の強さに応じ,加減する。硝子の外面に,ペンキや石灰乳を塗る方法が,−般に行われている。

 塗りが薄過ぎたり,禿げてたりすると,思わぬ日炊けを起し,折角の実生小苗を絶滅させたり,ご自慢の大物を台なしにしたりする。特に,早春や初秋の頃に,この憂目をみるものだ。この季節は,硝子の傾斜が日射の方向に直角前後であるため,硝子面での反射で失われること少なく,日照の強度は相当のものである。その上 生長開始期の植物体は,軟弱であることが加わり,日焼の原因を作る。快晴の日には,特に注意を怠ると,被害はテキメンと来る。初歩者は,絶望に陥り,名人は,微苦笑で自嘲する。弱光を好むコノフィツム,その美事な大群生株に,数時間の油断で明鏡止水型の大禿が出現することもある。

 この遮光法は,季節に応じ 塗付の厚薄で調節するのだから,日々の晴曇に即応はできない。これに反し,霞簾を用いるのは,理想的ではあるが,その手マメな操作は容易ではあるまい。

 石灰乳は,消石灰に水を加えて作るが,糊の類を加えれば,接着性を増し,はげにくい。それでも,剥脱は免れがたいから,大雨後などは特に注意の要がある。石灰乳を除くには,こすり落しにくければ,薄い塩酸液を塗って,溶かす方法で成功する。塩酸は,隙間から,植物体に落ちると被害があるから,工夫は必要である。後,水で数回洗い,塩酸分を除く。更に徹底的にするなら,薄いアンモニア液を塗り,残留する塩酸を中和,次に,水洗をくりかえせば,完全に安全となる。

 白ペンキを塗る方法は,剥脱の心配は遥かに少ない。しかし,これを除くのには,こすりとる位の方法しかなく苦労する。

 日照は,室内の位置により,多少とも強度が異る。硝子面に近い程強いが,4〜50センチ以上遠い距離になると,殆ど変らない。リトープス類は,硝子面に近く,コノフィツム類は,遠くに配置すべきである。

温室内のコノフィツム(1)

小型種や丸型のものは,他のものよりも幾分か日光を弱目に与えた方がよい様である。

 潅 水

「水かけ三年」と先輩はおどかす。名人に伺いを立てると「植物の顔色で渇を訴えるのを知る」と宣う。一応,拳拳服膺して,初心者は,慎重の心構えこそ望ましい。豪放型には向かぬ仕事である。 女仙のような,乾燥を好む植物では,その根は,水分は少量で充分であるが,空気は大量が必要であると解すべきである。従って,水分が充分以上即ち過剰であっても,通気良好であれば差し支えない。水耕栽培は,後者の条件下で行うもので,カクタスで成功しているし,女仙にも応用可能であろう。しかし,土壌栽培では,過剰の水分即空気欠乏を意味するので,前者の条件下で行わざるを得ない。そこで,低度の「風吹いて桶屋喜ぶ」的真理を遵奉して差し支えないことになる。

 女仙の生育に好適な土湿の範囲は,数字や言葉では現わしがたいが,カクタスのそれと同程度であり,従って,一般植物では萎凋を来たすものである。

 潅水は,適湿の範囲を下廻った時に行うが,その給水量は,その範囲を上廻るに足るものでなければ,水分が均等に鉢土に滲透しない。殊に,鉢土が古くなり,通水機能が悪化した場合は,更に,より多量の給水が必要となる。従って,潅水直後からしばらくは,潅水の巧拙による程度の差はあっても,兎に角,過湿状態に在る。そして,適湿の範囲に入るのは,1〜2日後,或は2〜3日後であり,理想としては,成るべく早く,この過湿状態を脱すべきである。

 潅水の適期を判断するには,表土の色合,素焼鉢ならば,外側に滲出する水分の多寡による濃淡の色調が指針となるが,用土を堀って窺えば,より約確である。

 潅水の量は,前記の如く,多少とも過湿に至るまでと言っても,鉢内均等に行きわたる最小量が望ましいところ,そして,それは必しも容易でなく,経験がモノを言う技術である。結果からすれば,底穴からの排水を見れば,過剰であり,底穴のガラが多少湿潤気味に,常時保持されれば適量と言えよう。鉢土を掘ったり,取り出して調らべる手数も必要で,技を磨くに無駄とはならない。

 培養土は,一定のものを使用すれば,潅水に際し,鉢ごとの配慮の必要も少なく,多少とも,労をはぶくであろう。

 潅水後の過湿状態に対する処置は,別項の気温及び気湿の条で説くように,通風により,危機を回避する。              

 休眠期の潅水については,必要論と無用論とがある。信頼すべき,精密な比較試験もない以上,結論は控える。潅水派,断水派共に,その主張に理論づけをしている。しかし,生理現象を解釈する理論を,必要にして充分に揃えるのはむずかしいことで,両論共に欠陥があるようだ。気温,気湿と関連して論ずべきで,給水のみを抽出して,論ずべきではあるまい。

 休眠中の潅水は,用土の完全に乾きあがるのを避け,根の枯死を免がれる方針で,その量や頻度はきまる。特に,日没後の潅水を推奨する説もある。昼間の高温下の多湿を避ける意味であり,それは,原生地の夜露に対照され,合理的とも考えられる。要するに,休眠期の潅水には,慎重を要し,生長期よりも心労に疲れるものである。

 筆者は,断水派であるが,従って,休眠期は「寝た子は起すな」である。

温室内のコノフィツム(2)

足袋型種は強健で豊富な日光を要求する。特に生長旺盛な冬期は,ガラス越しの直射日光に浴させるが肝要

 硝 子 室

 その種類,構造などの詳細は,専門書に譲り,ここでは,女仙栽培に即した考察を述べる。

 硝子室は,その環境から完全に遮断されたものでなく,その影響は強く,時には致命的でさえある。建造物,立木などの近接は,通風の緩和或は支障となり,室内気温を高か目とし,季節により,或は有利に,或は不利になる。特に,生垣,庭木,下草の蒸散による高気湿の侵入は,無視できない。欝蒼たる材木に囲まれた幽邃な庭園などでは,よしんば日照に恵まれても,室内の湿潤に悩まされることもあろう。

 フレーム

  型に片屋根,両屋根など,屋根の傾斜に緩急,容積に大小,栽培上 その間に得失もあるが,詳述は略する。

 地上に設置したものは,内底地面からの水湿により,又通風は,接地層の高気湿のものであるから,兎角,室内は高気湿に傾くことを銘記する必要がある。特に,堀り下げの深い程,地下水位の高い程湿潤の傾向は強くなる。荒日の砂礫を厚く敷き,上昇水を遮断するのも一法である。

 屋上に設置したものは,内底よりの水湿もなく,通風よく,しかも上層低湿のものなので,過乾の傾きはあっても,過湿の心配はない。内底に,砂や燻炭などを敷き,これに適宜撒水して,過乾を防ぐのがよい。又地上フレームと異り,病虫害の攻撃は,遥かに少ない。但し,寒気,強風への対策が必要である。

 フレームは,温室に比し,容積対底面積比が小さいので,気温の急激な変動があるから,障子の開閉には,より留意すべきである。

 温 室 

 一般に四分の三屋根のものが行われてる。これは,カクタスのものの転用で,その構造は,栽培植物の丈が低いので,屋根の下端は地表に近く,通路は堀り下げとなっている。この構造は,保温の点では合理的であっても,空気交換の点では不合理で,堀り下げ温室では免れ得ない。又天窓は,大きくもなく,数も少ないのが普通である。一般温室栽培家が,換気通風のために,構造に工夫を凝らすことからすると,無神経も極まれりとケナシたくもなるが,一方,女仙作りの名人が,結構,このシロモノを使いこなしている事実を見ると,女仙は,土台,大抵の環境に順応するものと知ってか,知らずか,兎に角,その大胆不敵さに驚嘆する。それが,名人芸であろう。併し,だからと言って,自分もおっつけ,その仲間入りと楽観するのは禁物であろう。

裸  の  群  像

或る海水浴場は,この様に雑沓していた。

  鉢

 女仙用には,用土を乾き易くする性能を持っ鉢を選らぶのがよい。もっとも,培養土の乾湿の傾向は,その種類や粗密,潅水の仕方にも関連するから,極論すれば,どんな鉢でも使いこなせる筈ともいえる。しかし,長い,多くの経験からの落ちつくところは,多数の小苗の寄せ植えには,常滑焼などの堅焼の角鉢,一般用には,温室鉢と通称される素焼鉢,或は楽焼鉢である。

 楽焼鉢は,高価であり,破損しやすく,個人により観賞上の好悪があることに問題もあるが,栽培の点からすると,最もすぐれたものである。素焼は,粗らく,薄く,それを外面のみの釉薬で,過乾に傾くのを防ぎ,底穴の細工は綿密に,大きくしたあたり,全く非のうちどころはなく,経験者は,必らずといって,推奨するものだ。  

 温室鉢は,最も一般的に用いられる。同形のもので,質のより粗らい駄鉢というものも,過乾を避けて,用土や潅水に工夫すれば,結構使える。

秋 の 女 仙 た ち

冷涼の秋は最も快適の季節。夏の休眠から醒めた彼女等は,生長と開花に忙しい。

 堅焼の角鉢は,寄せ植えに,挿し木用に,又播種用に用い,置き場所に無駄な隙間を残さず配置できる利点もある。

 鉢の大きさは,植物のそれに比し,小さ目と感ずる程度のものが適当である。ズブのシロウトは,兎角大鉢にしたがる誤をおかすものだ。用土の多い程生育は旺盛となろうとか,しばらくは鉢換えの面倒を避けようとかの痴恵でもあろうか。一体,どんな植物も,鉢の大小に拘らず,その根は,通気良好な鉢の内側や底に向かって突進,ここに細根を群生するもので,従って,鉢の中心部には,給水パイプの主管に当たる主根が殆どで,それは,根の主要機能である吸水作用などは行わない。無駄な培養土,無益なパイプ布設に加えて,通気をとざし,排水を妨げる場所を増設して,有害でさえある。移植の際,場合によっては,同大の鉢が適当であることも,上述の理由から妥当である。

 観賞上からも,鉢と苗との調和しない,大鉢に小苗のチョコナン型は感心できまい。

 一方,余り小さい鉢は,乾湿の調節むずかしいから,小苗だからとて,二寸小鉢に一本植えはまずい。

温室鉢では,二寸五分物以上が使用に耐える。従って,小苗は,寄せ植えとなる。一般に,数本ならば,三寸鉢に,多数ならば角鉢に,比較的密植気味にすると生育は良好である。

 底穴については,軽視されがちだが,排水,通気に大きく関係することは重視する要がある。楽焼きは別として,一般に小さ過ぎるもの,偏在するものが見られる。小さい金槌により,安全に穴を拡げることができる。

青 磁 玉 の 出 蕾 と 開 花

青磁玉の花は毎日午後に開く。若緑色の美事な巨株も,午後には鮮黄色の花の毬と化す

 ガ ラ

底穴と培養土との間につめ,用土の脱出を妨ぎ,排水,通気を良好にする材料である。ケシ炭,鉢カケ,煉瓦片,土塊などを単用或は混用する。シロウト眼には,多過ぎると感じる程度で,比較約多く使用すべきである。ここでも,大鉢使用と同じ考えから,兎角ガラを倹約するものだ。盆栽家が,あの小形薄鉢にさえ,相当のガラを入れるのに学ぶべきである。

 小石,砂利の類は,排水通気はよいが,水持ちの性質を欠くから避けた方がよい。

 土塊は,団粒強固で崩壊しにくいものでなければならないから,問題は簡単ではない。

 ガラの使用量は,鉢の高さの1/4−1/3位で,小鉢には少な目に,大鉢には多目にするがよかろう。

 底穴をふさぐには,大塊を,そして順次小塊のガラを使うのは当然であり,この辺の作業は手マメであるのがよろしい。

李  夫  人

リトープス中で最も丈夫なものと言われている青系の美しい品種。深窓玉は,その模様が窓型になった変種。

 如 露

 潅水は,成るべく細い水流で,静かに,平均に与えるべきである。従って,如露の良否は,先ず先口如何にかかる。蓮実型のもので,銅或は真鍮製,正しく穿孔され,水流が途中で衝突しないものに限る。水圧は,尖端で相当強くなければ,円滑に放水できないから,管は可なり長くなければならない。普通使われてる英国型というのは,この点巧妙である。孔がつまったからと,針など使ってはいけない,孔を大きくしたり,方向を曲げたりしてしまう。庭や路に撒水する安物の如露は,水まき用のもので,水やり用のものでない。

紅翠玉の大群生株

白緑色の丸型で球の横面は美しい赤紫色。健康でよく群生するコノフィツム

 培 養 土

 女仙の栽培に適した土,それだけを鉢に盛って使える土を,自然界に探し索めても,無駄骨に終わるであろう。カクタス栽培に,遠くメキシコに土を求めて,結果は大失敗だった昔話もある。松林の土で,松を仕立てる盆栽家はおるまい。

 土の学問も進んだが,それが栽培家の常識として消化されるのは,大部先のことであろう。従って,真実とは連な論説も横行する。

 草花の鉢植えには,土と砂と腐葉土との混合が使われるのが普通だが,それは理屈からも,経験からも正しいことを教える。要するに,数種の素材を混合して,各素材特有のものや性質を提供させて,植物の御意にこたえるわけである。女仙でも,この混合土とか調合土とかいうものを用いる。

 培養土は,何によりも肥えたものとするのは,余りにシロウト考えで,惰農が,ドカドカ肥料をブチ込んだり,新肥料あさりに狂奔するのに似ている。農業も,肥料から土の時代に入ってる。

 女仙の培養土は,排水,通気よく,しかも水持ちのよいのが条件である。この点は,他の多くの植物の場合も同様で,今更うたいあげるのも気がひけることだ。唯,この三条件が不充分でも,出来は悪くても生きてはいる植物も多いが,女仙では,致命的になりかねない。女仙では,乾きがちで,しかも乾きあがらない状態が長く続くような培養土が必要である。

 女仙の培養土には,その素材の種類,配合の割合で色々のものが行われてる。素材の入手が楽であるとか,安価であるとかは別として,その生育効果の点からは,これらの間に,それ程の優劣は認められないようである。

 慣行的に使われ,そして「女仙の名人」「女仙の神様」といわれる者も採用している用土は,将来のことは兎も角,一応採用すべきである。初歩者は,アレコレ迷いがちなものであるが。

休眠中のコノフィツム(小紋玉)

 休眠期中に現れる外観は,特に異常である。

 砂,腐植質,石灰分を主材料とした慣行的なものに,別にここ数年間の経験からして,又理論上からも適当と,する新培養土とを加えて述べる。

砂は,排水,通気良好,腐植質は,水持ち良好の上に,その粒度微細でない限り,排水,通気も可良であるから,この二つを主原料にして,必要な条件をみたしてる。土という,特効も持つが,欠点もある,そして又,産地により,性質を異にするものを採用しては,一定の性能を備えた培養土を作るのはむずかしい。勿論砂も産地により,性質に差異はあるが,土程ではない。特効には眼をつぶり,厄介な土を排して,砂を採り,規格化に進んだことは卓見といわねばなるまい。中京地方で,盆栽家が砂植えをするのにヒントを得たかも知れない。

寂光(左)と淡春(右)

 写真を並べると,どちらも同じに見える腰高のタビ型コノフィツムであるが,寂光は6〜7月に朱紅色花を咲かせる夏型種。淡春は秋に黄金色花を開く冬型のものである.

白   魔

銀泥造り宝船型の白魔は,全女仙中でも最美のものの一つに数えられる。花は,白又は鮮桃色で,一花よく3週間にも及び,白銀の体に映えて実に美しい。

 

 川砂が好適であるが,山砂なども使えるであろう。川砂は,特に上流の,角ばったものがよいとされるのも,ひと理屈ある。産地により,多少効果に差異もあろうが,余り砂さがしにコル程でもあるまい。砂の代用或は別の効果も含めて,バーミキュライトのような新材料で置き換えたり,一部に充当したりするのもよいであろう。又関東地方の赤土なども使えるであろう。

 砂の粒度は,一言でいえば,コンクリート用のものより,少々荒目のものである。3.0〜0.5mm径位か。ミジン(微細粒)は篩別し除け,いや残せと議論もあるが,これは栽培者の潅水のクセによってのものらしく,にわかに決めかねる。

 砂は,使用前水洗する。水洗不要の主張もあるが,始めから清潔であり,水洗の手数面倒というわけだろうが,夾雑物を相当含んだのもあるし,潔癖漢には堪えられないでもあろうから,水洗は,別に毒でもあるまいから,水洗結構としたい。

 腐植質

 堆肥,腐葉土,棉実の腐熟物などは,その含有肥料要素は勿論,必須微量栄養素を提供するばかりでなく,未知の生育効果もあるが,特に重要な性質,水持ちと水排けを培養土に附加する。腐植質は,その材料が,初期の急激な発熱を伴う腐敗醗酵が終わり,以後は,極めて徐々な変化に移った時に生成されるものである。従って,培養土中の腐植質は,栽培中も,可なり長い間,消耗は少なく,その効果を持続する。

 堆肥は,材料により性質も異なる。始末に困る共雑物,雑草の種子などの混合されたもの,又過度に腐熟し,土状になり,その特質を失ったものは避けなければならない。

 棉実腐熟品は,ピートとかエキノビータとかの商品名で知られてる。棉実を主原料とし,有機或は,無機肥料,石灰分なども加え,腐熟させたものである。副原料からの肥料要素もさることながら,その特効は,腐植質にある。従って,棉実のみで作ってもよい。その粒形,組織独特で,軽く,扱いよく,筆者は最もよいものと考える。棉実油粕も材料となる。

 上記二種の作り方は,適量の水分を含ませ,即ち手で握ると水分の流下する程度にし,堆積,発熱による蒸発水分は適宜補給,二,三回反転積み換えもして,順調に,平均に腐熟を持続させる。過乾,過湿を警戒すれば,迅速に,良品を得る。三ヶ月位で完成する。ムヤミに長く堆積する要はない。半年以上もの堆積を主張するのは,作り方の拙劣によるか,臆病のなせるわざである。製品は充分に乾燥して貯蔵する。腐葉土は,カシ,シイなどの常緑濶葉樹,ナラ,クヌギなどの落葉濶葉樹の落葉を原料としたものがよいとされている。充分腐熟し,多少葉の原形をとどめ,手で引くと容易に切れる程度のものがよい。全く原形を失い,土状となったものは避ける。原料を,土に掘った穴につめ,乾いたら給水し,一年後には完了する。石灰窒素,過麟酸石灰の少量を混合すると膨軟な良品を得る。

 石灰質 

 貝殻末,シックイ末,石灰岩末などが使われる。これらの優劣に関し,名論卓説が絶えないが,精密な実験成績からのものではないらしく,巧妙な推論というより,話術らしく思われる。養鶏用のカキ殻が入手しやすく,一般に用いられている。

 燻 炭 

 モミ殻を炭化したもので,通気,排水,水持ちよく,多少無機栄養素も含み,地温を高めなど,効能書にならべることも多い。 使用しない人もあるが,培養土の膨軟保持に,一役をかわせて,何んとなく使いたくなるものである。

 配 合 

 標準的な配合割合は,砂7,腐植質2,石灰質1,燻炭1位のところか。多少の変更があってもよい。腐植質を増量すれば,生育良好であろうなどと慾深く,余り増量すると,軟弱な生長の原因ともなる。混合には,適量の水を加えて行う。乾燥状態では,均一に混合できない。作り上ったものは,手にベタつかず,盛り上げても,すべり落ちない程度の,シットリした湿潤状態のものがょく,これは,直ちに植え込みに使える。放置して,乾いたものは,使用前に,再び水湿を与えて,よく混合,前記のような状態のものにし使用すべきである。

紫  粉  玉

曲玉近縁の夏型の仲間で美しい唐草模様のある大型種。6〜7月頃に黄金色花を咲かす。

 滅 菌 

 砂や腐植質を天日乾燥して,日光消毒しておくのもよいが,日光消毒は,徹底的完全な効果は期待できないから,配合後のものを滅菌すれば,これは全く安全のものとなる。薬品による方法もあるが,種々の面倒も伴う。蒸気滅菌法を,特に少量を扱う趣味家には推奨したい。布袋に培養土をつめ,沸騰中のゴハン蒸し器に入れ,約30分行う。肥料分の揮散を心配するのは無用である。鉄板上で,火力で加熱する方法は,充分全部が殺菌されるまで行えば,腐植質は,焦げて変質し,又それを避ける程度では,殺菌は不完全となる。蒸気などより火が強いとするのは,余りに素朴な考えだ。

 新培養土 

 この土も配合した培養土は,別記各論で述べるが,ここに,老婆心から,若干の附記を加える。

 海外で行われてる女仙の培養土は,必ず土を混入している。土は,既知未知の効果が植生に現れるものなので,当然採用を考えるべきである。唯,砂と異なり,土の種類は多く,それぞれ性質に差異があるので,その選択が問題となる。この場合,特に留意すべき必要な性質は,崩壊しにくい団粒組織強固なことである。この性質を具えた土は,どこでも求められるものではない。尚又,砂と異なり,土は病菌の持ち込みもあるので,注意を要する。最近開発された土壌改良剤を用いて,容易に土壌の団粒化が可能となったので,この問題も解決できる。クリリューム,ソイラック,ポパールなどにより,耐久性強い団粒の形成は容易である。その団粒形成は,砂質のものではむずかしく,粘質のものではやさしい。詳細は略する。

         

 移 植

 その好機は,休眠明け,生長始めの頃であるが,都合により,必要に応じ 生長期中ならば行って差し支えない。 毎年一回の移植は必要で,更に一回行えば,それだけ効果がある。

 海外の文献は,2〜3年に一回を主張しているが,気候風土,栽培法も異なるであろうから,何にかひと理屈がありそうだが,意外の感もする。我が国での多くの経験は,移植に高い価値を認めている。

 用土は,漸次,膨軟から堅硬に変わり,給水の滲透は不良となり,含有肥料分も枯渇して,生長が衰退するが,新用土への移植は,生長の回復亢進を如実に示すものだ。又移植は,根部の病虫害の発見や処置,土や根の状態を観察する好機である。

 移植する苗の根は,枯死した部分は勿論,細根の大部分も切除して整理する。そして,数日の陰干で,損傷部からの腐敗を予防する。根の再生力は旺盛で,数日後には,新根の伸長が見られる。

 培養土は,適量の水を加え混合,シットリとしめり,膨軟となったものを用いる。この膨軟こそ重要であって,それは,多くの間隙の存在を意味し,良好な通気,通水を約束している。従って,植え込みの際は,手指などで鎮圧してはならない。

 植物体の下部は,腐敗の発生しやすい箇所だから,その接地を避けるため,用土は低めにとどめ,次に小砂利を一層敷いて作業を終わる。

 鉢は,使用前に,水に浸漬して,充分吸水させたものを用いる。乾燥のものでは,直ちに,鉢と用土との間に,水分の収奪が起き,又潅水による水も,鉢に移行する分多く,従って,鉢,土,給水間の水のバランスが恋の通り,中々定らない。

 移植後,直ちに潅水してもよいが,大事をとって,二,三日猶予するのも安全である。何にかの都合で,充分根の陰干をしなかったものは,直ぐ,潅水するのは,少々危険である。

 白紙一枚位を,数日の間は植物体にかぶせて,遮光する。

 

聖  寿  玉

白緑色肌の大型リトープス,花は純白色で晩秋の頃に開花する。30頭位の大株となると堂々たる貫禄と揺るがぬ美しさとがある。

           

オフタルモフィラム,シュレヒテリーの開花

すき透るヒスヰ色の肌,水玉の様な頂面,妖しいまでに美しい花。オフタルモには幻想約の美しさがある。

    

露  美  玉

褐色強き大型リトープス,頂面の網目状凸起が独特

赤 琥 珀

30年近くも昔の話,ドイツに赤花の琥珀玉があると言うので種を導入し育て,やがて花が咲いたが赤花は一輪も咲かずに終った。だが,その肌色は,赤々として美しい。

 肥 料

 女仙は,生長が至って緩慢であるから,必要とする肥料分は,極めて少量で足りる筈である。その上 普通の鉢物のように,絶えず,多量に給水し,底穴からの肥料の流亡烈しい潅水法を採らないから,用土中に含まれている肥料分で,次の移植までの半年や一年位は,充分であるとも考えられる。

それ故,特に施肥の要なしとの主張も,用土が相当期間肥沃である限りは正しいであろう。しかし,用土中のピートなどの肥効が低い場合,又肥料要素のバランスを保つために施肥が必要と考えるのも合理的である。

 施肥は,余りたびたびは失敗のもとであり,ひかえ目が安全である。又液肥が濃厚過ぎての被害も多い。余りに無智,余りに貪慾である。施肥法の誤りが施肥そのものの排撃,特定肥料不信のもとを作る。大体,化学肥料は,濃厚なものであるのに,稀薄液として使用しないための被害が,化学肥料恐怖感を作りあげている。化学肥料は,一般植物には,1/1,000(水1リットルに1グラム)位が安全なところであるから,女仙では,学理上からして,更に薄い,3/10,000位が適当となる。ハイポネックス,プラントフードなどは,使用法の示すより 3〜5倍薄くして用いる。要するに,「これっぽっち」と感じる量で充分であり,それ以上は危険である。生長期に,2〜3週間に一回位の施肥で充分であろう。

 油粕の水肥は,腐熟液をホンの少し着色してる程度に稀薄して用いる。

 練り肥は,有機質肥料の固型体の腐熟品で,保存もきき,使用に便で推奨したい。作り方は色々あるが,一例を示すと,菜種油粕に3〜5倍量の土を混合,適量の水で練り,粘土細工の要領で,鉛筆の太さの棒状に作り,虫害を避けるため,箱などの中で腐熟させる。この間時時撒水して水分を補給,数箇月で,硬い棒状の製品となる。油粕の1/5量を米糠及び木灰にすると,燐酸,加里の増量となり合理約なものとなる。適当の大きさに砕き,少量を用土の底に混入する。

 化成肥料や化学肥料を,そのまま用土に混入する方法は,少量でもあり,均等に混合するのは困難であって,避けるべきである。

 病 虫 害

 病虫害を制圧する薬剤の進歩は目覚ましく,戦前と比べ隔世の感がする。兎角,薬害におびえて,躊躇しがちだが,敢然試用すべきである。薬害は,使用濃度にも関係があるから,特に注意を要する。大事をとり,数鉢のものを,試験台にして試用すれば安全である。

 害 虫

 根ジラミには,ヘプター粉剤を根に撒布或は用土中に混入する。レッド・スパイダーには,アカールなどの新薬も多く,ネオサッビランは殺卵も兼ねている。貝殻虫には,パラチオン剤の効果がすばらしい。ナメクジ,カタツムリには,メタアルデハイド剤のシュネッケンコルン,ナメキールなどが有効である。但し,彼等は絶えず硝子室内に侵入するから,常に補充を怠ってはならない。その他,毛虫,青虫,シャクトリ虫なども入り込むが,DDTなどの一般殺虫剤を利用する。

 病 害

 薬剤の効果は,予防的であって,治療的でないから,時々撒布の要がある。ファイゴン,シミルトンなどの撒布は効果が認められる。銅製剤は,薬害を起こし易いので,慎重を要する。

 通称乾性腐敗病と言う,リトープスなどの根際近く,淡褐色の病斑を作るものは,早期に発見できれば,病婁部を充分に除去すれば,枯死を免れることもある。

鳴  弦  玉

褐色肌の中型種で,よく分球群生して愛らしい。黄金色花初秋早咲き

 鑑賞,蒐集

 ここの問題は,各人各説は当然であって,従って,単に主張に終わり,大方の賛成を得がたいかも知れないが,敢えて述べることにする。

 目標とするところは,帝生巨大株であり,それには,年月を投入し,栽培に専念すべきである。リトープス全種を,単頭株位でならべ立てても,それは,ほほえましき蒐集の程度で,一応結構と位の評に価する。カクタスでは,金力と機動力とを駆使して,原地産或は内地産の標本的株を入手,インスタント大蒐集家となり得よう。しかし,女仙では,少なくとも現在は,この手は通じない。

 群生の頭数は,種類により,それぞれに,極限があるらしい。例外として,アルギロデルマ属の大部分は,双頭にさえなりにくい。

 群生株の葉体は,単頭株のそれに比し,小形となる傾向があるが,これを忌み嫌う向きもある。又,単頭株でも,より大形のものを愛好する者もある。この大小は個体にもより,又,多肥とか多湿とかの危険を冒しての栽培の工夫で成功することもあろう。しかし,多くの場合,体色,紋様などの淡色乃至不鮮明が免れがたいから,特有の魅力を失いがちとなる。巨根願望の超心理が審美眼を惑わすとでも言うべきか。

 蒐集は,一種当たり一株では,将来の大成には充分でない。少なくとも,二株,望むべくは,数株を同時に入手して出発すべきである。巨大株への道は長く,その間,失敗により失うことも多く,同時に,各属,各種の特性を知り,栽培のコツを会得するためには,蒐集には,上述の如くであるべきである。


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