各種の記載とその栽培

田 中 喜 佐 太


Lithops N.E.Br

リトープス属

 西南アフリカ 大及小ナマカランド原産の高度多肉植物で,約80種の大族,その約80%は既に吾国に導入された記録がある。

     秋酣の頃,咲き始めた大群生株
ヤコブセン博士曰く,「リトープス共は日本では幸福らしい」

無幹にて群生する。一対の葉は合着して円筒形或は円錐形の多肉体と成って居り,頂面の割目は此の肉体が,二枚の葉の合着体であることを示している。

頂面は扁平或は凸面,時にやや凹面で,一部或は全面が透明な窓となるもの,線又は点線紋様のもの等がある。体色は褐色系,青色系,白色系,窓及び紋様は暗緑色,赤褐色,紫褐色,灰緑色等であるが,此の体形,体色,紋様は,原生地の岩石にまごう擬態で,植物には珍しい現象である。花は球体の割目から出蕾して坐開,花色は白色と黄色系で,花期長く,花径は34cmである。

花  紋  玉

 リトープスには,主生長期を冬とするものと,逆に,夏とするものとがある。冬型のものの生長は9月頃に始まり,翌年5月頃迄に終って休眠に入る。夏型のものは,3月頃から生長を始め,10月頃には殆ど停止して休眠する。冬型種の花期は秋91011月で,休眠期は,78月の盛夏。夏型踵の開花は67月で,休眠期は冬である。此の外に,夏型種とも冬型種ともつかぬ若干の品種があるが,これ等は,夏,冬何れの扱いでもよいのではないかと考えられる。

 以上のことは吾が国の中央部の標準で,ドイツの文献に依ると,殆どの品種の主生長期を,夏としてあるが,吾国の中央部より緯度が,相当北に寄ると,冬期の栽培の困難さに依る為と考えられる。

休眠中のリトープス

秋咲の各種は夏に休眠させるがよい。休眠には,明るい日陰を与え,成るべく通風よく涼しくしてやる心づかいが必要

 吾国は,地形南北に長く,随って気象上の差異も相当にあるから,上述の生長期,休眠期の事は必ずしも一様でないことを考慮に入れて栽培こ当たるべきであろう。リトープスの新体は,旧体の割目から,或は時に体側を割って現れ,旧体の実質を収去して生長,遂に旧体は薄皮と化し,新体の下側部を 旧体が新体と交代する現象を吾々は,脱皮と呼ぶ。冬型種の脱皮は殆どが早春に行われ,夏型種は56月頃である。脱皮は毎年1回行われるのが正常であるが,幼,小球では23回も脱皮することがあり,中,大球も2回脱皮をすることがあるが,何れも好ましい状態ではない。包皮するに至る。

 脱皮は,玉型の女仙のみに見られる特異な生長過程で,極めで怪奇,又極めて魅惑的なものでもある。

満 開 の 群 生 株

   夏に完全休眠した株は,秋の開花が美事,前頁の株の開花である。  
(此の二枚の写真は,ヤコブセンの大著多肉植物教本に掲載された前年
1959年頃の著者の栽培品)

30年の度史を語る完成株の群

女仙を志して30余年。時に長くも感じ又短くも感じられる。然し,女仙と共に在る生活は,こよなく楽しいものである。

                  

 成球に達したものは,脱皮の際,2頭に分球するものが多い。稀には30頭になることもある。これは品種にも依るが,前年度の栽培管理が特に良好であった場合に限るものである。前年の秋に始めて開花した単0頭の成球は,翌春多くは20頭となるから,その翌年に40頭に,翌々年は8頭に,更に翌年は160頭にということは,女仙愛培家の希望であり夢でもあるが,リトープスは,必ずしも鼠算式の計算は通用し難い様であるが,何れにしても,年月と共に頭数を増して,美事な群生株にと育って行くもので,長年月を投入して作り上げた大群生株は,極めて観賞価値高きものである。群生の限度は,品種に依って異なるものであるが,概して小型種は多く,大型種程,分岐が少なく,夏型種よりも冬型種の方が,よく群生する。又,体色の点では,青系のものが最も多頭になる様である。

 著者の栽培品では,青系の品種で現在50余頭に達しているものもある。これは恐らく吾国での栽培に限っての生長で,原産地の自生株にも,外国の栽培品にも,この様な大群生株は見られぬ様である。ドイツのヤコブセン博士は,その大著HANDBOOK OF SUCCULENT PLANTS(多肉植物教本)の中で,「Lithops appears to be happy in Japan」(リトープス共は日本では幸福らしい)と言っているが,吾国の気象が女仙共にとって禁固的なものとは考えられないが,少なくとも先進国と言われるドイツよりは,気象的諸条件が何程が恵まれているし,ガラス張りの栽培室は,或る程度までは自然の気象に抵抗して,女仙に対する楽園的な環境を作ることが出来る上に,栽培に当たって,微細な実生苗を扱う箸先の器用さに於ては,日本人の唯もが世界的名手と言へようし,小型の鉢植植物を管理する感覚の鋭敏さも亦伝統的に素晴らしい民族であるから,これ等のことが相侯って「日本では幸福」と言うことになると思う。

弁  天  玉

 リトープスの栽培に就いては,給水と温度と日射等に特に注意したい。

 生長期に用土の湿潤は絶対に必要であるが,湿潤の連続でなく,時に湿潤,時に乾操と,乾湿の交代が望ましく,中球,成球は,時には毛根が枯れ,球体に皺の出る程度迄の乾操,又,時には鉢底から流出する程の給水も必要なものである。チビチビと回数多く与えることは,此の植物には,誠に迷惑なことで,勉めて球体や表土を濡す度数を少なくする様に心掛けることが肝要である。

 又,給水の量も,回数も,概して小球に多く,大球,群生株に至る程少なくすべきである。

 休眠期中は,小球,中球には時々軽く潅水して,甚だしい萎縮の緩和を計ることが望ましいが,成球に達したものや,株立のものは,全く断水して,完全休眠を与えることが必要である。

 休眠に入ったリトープスは,徐々に精彩を失い,やがて球体に皺を生じて萎縮する様になるのであるが,決して安価な愛情心の様なものを起こして給水することは禁物であるが只,酷暑期の日没後,時折噴霧器で軽いシリンジを行うことは,栽培室の気温をいく分か下げることになり又,萎縮の程度を何程が軽減させることが出来る様である他,栽培者の気持ちを休めることに役立っものである。

 前にも述べた様に,リトープス其他の女仙にとって,休眠は絶対に必要な生育過程であるが,彼等は休眠中といえども全くの惰眠を貪っているのではなく,此の期間中に球体の内下部では,花芽が形成され,又次の新葉体が作られているのである。休眠に依る萎縮は次に来る生長期に飛躍的生長する前の縮身状態でもあるのである。

蛇  紋  玉

 脱皮中の潅水は,出来るだけ慎重に行いたい。脱皮の際,張り切っている球体は,新球が旧体の割れ目を拡げ,押し破っても現れてくるので,若干の裂傷を生ずるものである。旧体は新球の生長に反比例して間もなく萎縮して行くが,裂傷の新しい間は成るべくその部分と,新旧体の間に水の掛からぬ様に,細口の如露か水挿しの様なもので給水したいのである。旧体の萎縮速度は,小球程早いのであるから,角鉢に多数寄植した小球は,余り神経質に成らず頭から潅水しても犠牲の出ることは少い。脱皮中に(12週間)断水して,根からの栄養供給を停止させると,新球は旧体の栄養のみを吸って生長するので,旧体の萎縮は,一段と促進されるものであるから,此の方法に依って,一日も早く気安な潅水に戻る様にすることは腎明な方法である。

深  窓  玉

李夫人の変種で頂面は透明な窓型紋様となっている

 温度に就いて一般的に言えば,吾々人間が快適と感じられる程度の温度が適温であろう。然し,夏型のものはそれよりも5度か10度高目の時が開花期であるから,此の仲間は,或る程度高温を好む様である。

 冬型の一族は,秋〜冬〜春が生長期であるから,冬期若干の防寒に依って生長期間中温暖,爽涼と快適な温度下に置くことは,必ずしも困難では無い。

 冬期栽培室内の温度が,時々零度迄下降したり,稀に短時間氷点を12度割る様なことや,又盛夏35度以上,稀に40度近く迄上昇する様なことがあっても,その為に直ちに障害を起こすことは殆ど無いものであるが,これは,その様な高低温に突然晒しても障害を起こさぬと言う事では無く,除々に訓練されたものの場合での事であり,又,品種に依っても強弱はあるものである。

 ともあれ冬期間中部以北の地方では夜間栽培室に藁薦を覆っての防寒は必要である.又夏は南北を問わず出来る限り通風を計り,日覆をして甚だしい高温を避けることが肝要である。

 リトープスは「太陽の子」と言われる程に日射を好む植物である。原産地ナマカランドは高温である上に大地も大気も乾操して,強い太陽の照射する日が一年中の大半らしいので此の地方に生存する植物は,いっも此の照射下に晒されている様に想像するが,然し,カクタス属等の様に,自らその体肌に日蔭をつくる刺,毛等を備えていない彼女等は,その全裸の体を,烈日の照射から護る為に,或程度の岩蔭とか他の植物の蔭等に自生しているそうである。如何に「太陽の子」と言っても,赤道に近い乾燥地の烈日を一日中マトモに受けてでは生存出来ないものの様である。

 吾国の日射は原産地のそれに比べると遥かに緩和されて居り,特にガラスを透しての陽光は,夏期を除いては快適の季節が多い。吾々は此の植物を,より美術的に育て上げるためには,5月頃から9月頃までの間日覆をして,強過ぎる日射と,高過ぎる温度から護ってやる必要がある。

 日覆はガラス面に石灰汁を塗るか又は簾を覆う等が便利である。盛夏休眠中のものや,実生の幼小球には強くし,一般には,明るい日陰を与えてやる程度を越えてはならない。日覆を必要としない季節は,地方に依って若干のズレがあるが,著者の地方(信州)では,9月下旬から翌年5月上旬迄の期間である。冬期は日照時間が短い上に日射が弱く,地方に依っては曇天や雪降りの日の続くこともあるから,晴天の日は勉めて一分間も多く日光に浴させ度いものである。光線不足は球体を軟弱にして徒長させ,独特の姿態も色彩も失はせるものであるし,特に此の季節は冬型種の生長の中心季でもあるから,時々はガラス面の埃を拭ってやる程の愛情を傾けたいものである。

 リトープスの培用土に就ては,従来色々と面倒なことが言われたものであるが,実際には多くの多肉植物中でこれ程培養土に対する要求条件の少い植物は稀であると思う。リトープスは普通比較的小型の鉢に植え込んで栽培し観賞するのであるから,吾々園芸家が常識約に考えられる程度の肥料分を含んだ用土を用いることは当然であるが,特に多くの堆肥其他の肥料分を与える必要は全く無く,寧ろ過肥に依る悪影響は著しいことを知って置くべきであろう。

 川砂8,ピート(各肥料要素を含んだ上質の堆肥)2の配合土は最も無難であるが,鉢の下部へ三分の一程度ゴロ土を入れると効果のあるものである。鉢中の排水に就いては余り留意する程のことはあるまい,リトープスは他の多肉植物やカクタスの様に,根腐れの心配は殆ど無いもので,腐るのは殆どが球の最下郎であるから用土は寧ろ或る程度の保湿力のあるものの方がよい様である。ゴロ土は粘質のものが最適であるが廃土でも相当の保湿力はあるもので,大きさは豆粒大から指頭大位が適当である。

 植替の主目的は用土替にある。鉢に植られた植物は栄養分の供給元が,その鉢に盛られた僅かの用土に限られているので,順調な生育を望むには,その用土を新しいものに番えてやる事が必要である。給水の度を重ねるにつれて水の浸透や排水の状態が次第に悪くなって行くのは当然であるし,用土中の肥料分も大体一ヶ年もすると欠乏するものであり又,植物が生長して鉢の大きさや,用土の量と均衡が保たれなくなる様な場合もあって,その必要が生ずるのである。

露美玉の開花

琅 王干(かん) 玉

荒玉 と その脱皮

紫 勲 の 結 実

受粉した子房は日を追って肥大し,67カ月後に完熟する

裂   莢

完熟した種子は水に濡れると,莢が開いて,中の種子が見える様になる

芳  錦  玉

花紋玉の変種で,頂面にも模様にも青味がある

 植替の最適期は,休眠を終って,生長を開始した頃であるが,数多くの苗を栽増している最適期に全部を植替えることは困難であるから 実際には生育期間中は随時植替えて一向差し支えなく,充分に効果はあるものである。何れにしても年一回の植替は是非必要であるが,それ似上の回数は殆ど意味が無い様に思う。欧州の諸大家は,実生して発芽した苗はそのまま置いて2年目に植替えることがよいと言って居るが,実生小苗は余りに小さ過ぎて,箸を使えない人達には止むを得ない方法と思うが,成球も数年に一回の植替えでよいと言っていることは何としても領けぬことである。

 頼替えの際鉢から抜き取った植物は,休眠中に枯れている根や長過ぎる根は思い切って切り捨てる方がよい。その万が植付に便利であるし,新根の発生伸長も早いものである。若しもその際,根虱の付いているものがあったなら農薬へプター粉剤を振り掛けて植え込むと虫は駆除出来る。

種を付けた麗春玉

頂面に黒緑色の小紋を密に現した渋い色彩の品種

 

美事に発芽した実生苗

 リトープスの増殖は実生に依るのが一般的であるが,株分けして挿し木する方法もある。種子は信用ある園芸業者から買うことが一番早道であるが,現時外国からも純度の高い種子の導入はなかなか困難である。自分で採種を行うことには極めて興味深いものである。リトープスは通常白花受粉も自家受粉もしないものであるから,採種には2本以上の実生球を持たねばならない。採種用の親木には純正度の高いものを選ぶことが極めて大切なことで,親木の純度の高低は直ちにその実生苗の上に判然と現れてくるものであるから,此の選択には各品種の形態,色彩,模様等の特徴を充分に挨討して選定することが最も重要である。

 リトープスやコノフィツムや,アルギロデルマ等は近似型のものも多いので,時に依ると品種の判別に苦しむ様な場合さえあるが.何れの品種も一年を通じて観察すれば特徴は判別するものである。

 親木は成るべく同一の環境下に管理して同時に開花させ,人工媒助に依って結実させるのであるが,単頭のものは2本だけでは開花が不揃いになって媒助出来ない場合があり勝ちであるから,出来れば同一の品種を34本或はそれ以上も持ちたいものである。親木が年を経て群生殊に育っていると各球の開花に若干のズレがあるので一株としての開花期間が長く随って花の揃う機会も多いから一品種2株でも採種の目的は達せられるものである。リトープスは別の品種との交配は厳に戒むべきである。何か特殊の学術的研究目的の場合は別であるが,純正品を貴ぶ特殊の植物であることを吾々園芸家は常に忘れてはならない。此の故に若し予定株の開花が揃わない場合は潔く媒助の筆を置いて翌年の開花を待つだけの園芸的良心と落ついた栽培態度が望ましい。

 リトープスの花は,晴天続きでも秋咲のものは一週間,又はそれ以上も長く開花しているので,開花して数日後,雌蕊が星形に開いた時が媒助の適期であるから此の機会を逸せずにその柱頭へ軟毛の筆か小縒の先で別株から採った花粉を付けるのであるが,雌蕊は甚だ細く先端は特に軟いものであるから,媒助の作業は勉めで慎重に行はねばならない。受粉した子房は,日を追って肥大し,67ヶ月後に完熟する。完熟した種子は莢のまま採取して更に56ヶ月間,或はそれ以上の後熟期間を必要とする。若しも後熟を待たずに播種すれば,発芽率は極めて悪く,且甚しく不揃いのものであるが,これに反し採取後,数ヶ年を経た種子でも適当に貯蔵されていたものは実に美事な発芽率を示すものである。実生を行う時期は,秋又は春がよい。秋ならば9月から11月頃迄,春ならば34月頃が適期である。冬も温度さえ適当に保つことが出来れば利用出来る季節である。種子は清浄な川砂に播種して湿潤に保てば,56日日頃から発芽し始めるが,全部の発芽が終る迄には1ヶ月位を要する場合が多く,時には23ヶ月も遅れて発芽してくるものもあるので,貴重な品種は相当の長期間慎重な管理を続けるべきである。

粟粒大から米粒大

 既に独特の形を備えている。此の頃肥土へ植出すと 生長は促進される

実生苗はそのまま一ヶ年位置いてから植出す方法もある。この間に苗は育って扱いよくなる

 

春  光  玉

実生用土は普通,肥料分を含まない真砂であるから,発芽した苗の生長促進のあには,早目に,別の肥料分のある用土へ移植した方がよい。此の場合の用土は普通の標準配分のものでよいが,上面の12cmは真砂のみとして,そこへ植え付けるのであるが,幼苗は小さい上に軟かいものであるから,第一回の移植は特に慎重に行はねばならないが,吾々は唯しもが箸使いの名手であるから,此の技術を大いに活用すべきである。

 女仙の種子は概して細かく,その最たるものがディンテランツス,次がコノフィツム,次がリトープス,オフタルモ等で,発芽した幼苗の大きさも種子に比例しているから最初の移植は,粟粒大から米粒大のものを扱う事になるが,移植してからの生長は早いもので,秋播のものは翌春に,春播のものはその夏に第一回の脱皮を行い,満一年後には径1cm位の球に生長する。

 

李  夫  人

リトープスは,実生から育成して,開花までに34年を要し,順序よく育ってその翌年に2頭に分球するのが普通であるから,56頭位に群生させるには更に数年を要するので,大群生株は貴重であり,観賞価値もそれに比例するので,唯しも群生株は,その一頭たりとも切り離したくないものである。

然し乍ら,数の少ない貴重な品種や,特に性質の弱いもの等は,株分けして増殖して置いた方が安全である。株分けの作業は簡単で,鋭利なナイフで,球をその付根から切り離し,数日間陰干して切口を乾操させて,川砂に挿せば,12週間で美事に発根するから肥土を盛った鉢へ移し,普通に管理すればよい。

 株分けの時期は,休眠が終って生長を始めた頃が最適であるが,生長期間中は発根するものである。

 


 

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