Conophytum N.E.Br.コノフィツム属  

女仙属中でリトープス属と並び,その双璧をなす名門で,原生地はリ属同様大及小ナマカランド,文献に依ると所属種数は300に近い様である。吾国への導入の歴史は,リ属のそれと殆ど同様らしく,丸型種の数種は,曲玉,紅玉等と前後して導入された様である。現在までに導入された品理数は資料が乏しいので判然としていないが和名の付けられたものが100種内外に達している。此の中には同品に重複して付けられているものもあり又逆に同名異品と言う様なものもある。又学名のみのものもあるので,判然とした数字の掌握は出来難い。最近に至って相当数の品種が次々と導入されているので,此の一門は吾国でもリ属を凌ぐ,大家族になりつつある現況である。

さまざまの形をしたコノフィツムの群
吾々は従来,丸型,鞍型,足袋型の三つに大別して呼んでいる。

式     典
二裂片が極度に分離発達して,美しい足袋型を形成している。式典は此の型の代表種

 コノフィツムの形についての説明は甚だむずかしく,ヤコブセン博士は45の型を上げているが,吾吾が実際に栽培して見ると,栽培の仕方に依り,又季節に依っても形態の変化が相当にあるので,細別すれば際限が無いかも知れない。吾々は従来丸型(マルガタ),鞍型(クラガタ),足袋型(タビガタ)の三つに大別して呼んで居る。此の呼称は実物の形に即さないものも沢山あるが,中には実に適当と思はれるものも仲々多い。丸型の中にも形の大小,横長のもの,円型のもの,腰高のもの,低きもの,頂面扁平のもの,盛上ったもの中凹みのもの等々。又鞍型は球体の二裂片が盛り上がって発達して粒型を形成して居るが,浅型,深型故形に甚だしい大小がある。足袋型は二裂片が極度に分離発達したもので,足袋の形のもの鋏型のもの,形の大小等があるが,形は丸型鞍型に比べて大型のものが多い。

 肌は平滑,或は細微な乳状突起でビロード状。点模様及び,点線模様もその色彩も品種毎に異なり,異形の形態と共にそれは万態の表情を表す。歓笑。微睡。含羞。嬌笑等々,正に表情の植物である。而も潅水に依り水湿を得て球体膨張すると表情は又一変するのも誠に面白い。

 コノフィツムは形態が多様である様に,花形も花色も極めて豊富である。花径の大は3cmからは小は1cm以下のものまで,花色は黄,白,紫,赤,ピンク,茶色,朱樺等々と多彩の点ではリ属に優る。又全種中約三分の一は夜開種で,秋夜冷気の下に仙女群舞の夜々,数週にわたるものがある。

コノフィツムの生長と休眠の姿は,他の女仙に比べて最も判然としている。休眠は寂光の一夜を除いては殆ど夏期である。休眠中は例外なく灰白色に変わって萎縮するが,此の時は既に内部の新球が相当に生育しているから新球を包んで休眠するのである。休眠の期間は普通5月下旬頃から8月下旬頃までの3ヶ月間位が標準であるが,地方に依り又品種に依り若干の差があるものである。

朱  螯  玉
裂片は尖って美しい和鋏形となっている。本種は,時に高さ10cmにも達することある大型の優美種

 生長は残暑の候から始まる。此の季節,1〜2回の給水に依り,新球は,灰白色の旧皮を破って旺盛な生長を開始する。全く文字通りの脱皮である。而も此の際新球は2頭或はそれ以上にも分球して現れてくるもので,先づ最高に楽しめるものである。丸型のものでは稀に60頭,タビ型のものでも40頭にも分球することもあるが,これは前年度の作柄の良さを立証するもので,作柄の良くないものや,特に老株に於ては分球しない場合もある。頭数が増加していくことは,それだけそのものの価値が増した事であるから業的要素を含まない純趣味家も満喫出来る楽しさであろう。増球率は品種に依って高低があるし,又栽培の技術にも依るが,普通の場合通算して毎年こ倍の計算は決して皮算用では無い。増球は所謂鼠算式に行はれるので,1球から発足しても5年後には30余球。7年後には100数十球。10年後には1000球を越える計算となるのである。

 コノフィツムは此の様にその愛らしくも美しい姿を愛で乍ら,色彩豊かな花を眺め,最も特異な生育過程を楽しみつつ年と共に増球充実して行く株の群生美を味わい,更に鼠算式の増殖の楽しさを満喫出来る宝石植物である。

中 納 言
コノフィツムは表情の植物である。これは中納言さまの,まのびしたのどかなお顔

 コノフィツムの栽培については,前述のリトープスに準ずるのであるが,総体的に見て,リ属よりも容易であると言えよう。

 潅水については生長期間中は湿潤に扱うべきであるが,リ属の場合の如く,時折断水して生長に小休止を与えることは此の植物をより健康に,より美しく育てることに効果あるものである。

休眠中の潅水については柳か慎重であり度い。タビ型種の様に体の大型のものは,その期間中完全に断水して置いても体積に比例した体力があるから生長期に入って回復しないと言う心配は先づ無用であるが,丸型やクラ型の内の小型の品種は,3ヶ月間も完全断水すると,生長期に入っても回復せずにそのまま枯死してしまう場合がある。これには休眠中の日射,温度,気湿,通風等にも関係のあることであるが,特に小型の品種には,時折給水して極度の萎縮を防いでやることが必要である。

 コノフィツムはその形態や体積から見てもリトープスより遥かに複雑多様な一属であるから,生長,休眠の期間,時期等も一様でないことは言うまでもない。外面に現れる生長期間が一年の内僅か数週間と言われる様なものもあるが,これ等を残りの40余週間を休眠期間と考えることは出来ないから,此の様な品種には「時折給水」を行って所謂半休眠状態に置くのが一般的な栽培法とされているが,どうも此の栽培の仕方は何か正しさが欠けている様な気がする。

雨    情
春雨の中を,蛇の目傘を廻し乍ら歩いて行く人の風情。故渡辺栄次氏命名遺愛種

 

 吾国の様に四季が比較的判然としている処では植物の週期を人間の暦に合わせて考へてもよい様であるが,週期の構成から寒暑関係を取り除くか或は極めて弱いものにし,主構成要素が乾湿関係にあるとして,その週期が200日であった場合,或は150日であった場合,其処に原生する多年生植物は,人間の暦から解放されて,彼等独自の週期を作って生存するのではないかとも考えられる。

 生長期間の極めて短い小型のコノフィツムを,生かさず殺さずの半休眠と言う状態に長期間置く栽培法には何処か誤りがありはしないかと思はれる。小型コノフィツムの原生地の微気象に就ては文献にも殆ど出ていない様であるが吾々女仙党にとっては最も知り度いことの一つである。

 大型のタビ型種の中にも「寂光」の様に変わった生長期の品種もある。此の種の生長は6月に始まり直ちに脱皮,同時に蕾を出して6〜7月に開花するが,球体の生長は殆ど9月で止まりその儘の姿で秋冬,春を過ごす変わり者であるが,給水は外部の生長しない季節も時折行った方がよい。

旧皮で完全に包まれたまま休眠していることは,新球の水分発散を極めて巧妙に防止していることになるので,大型種は言うまでもなく中型のものも三ヶ月程度の断水には堪えられるものであるが。梅雨が長引いて栽培室の気湿が甚だしく高い日が続いたり,雨漏りや,気まぐれの潅水等があると,旧皮を破って季節外れに新球が顔を出してくる事があるが,その様な株を,そのまま断水し続けると,軟かい新球の水分は発散して減少するのみで補給が無く極度に萎縮してしまうから,こうした殊には時折潅水する必要がある。

休眠中の雛鳩(上)と雨月(下)
スバラシの秋に備え,新球を包んで静かに眠る夏のコノフィツム

足袋型種の脱皮順序
脱皮して2頭となるのは普通であるが,前年度の作柄がよいと3頭にも4頭にも増球。
かくして大群生株にと育って行く。

 潅水の方法に就ては,成るべく球体を濡らさぬ様にすることが理想的である。特に株立のものには枯れた旧皮が沢山に付いていて濡れると乾きにくいから注意して給水したい。而し乍ら数が多くなると,時間や労力の関係上頭上潅水も止むを得ぬこととなるから,潅水には勉めて晴天の日を選び,潅水後は厳冬期以外は通風を計って球体に付いた水や球間の水気を早く乾かす様に心掛くべきである。1頭株や,頭数の少ないものは頭上から潅水して殆ど差し支えへないものである。

 コノフィツム属も「太陽の子」の一族であるから日光は相当に与えねばならない。然し乍らリトープスに比べては若干日射を弱める方がよく,リ属を10とした場合8位が適当の様である。前述の如くコノフィツムは形態,大小が多様であるから,日射も一律に考えるべきでなく,概して大型種に強く,小型になる程弱目に,と言うのが常識的であるが,球体の色彩の点も考うべきであろうし,更には日射と花色の関係に就いても検討の要がある様である。黄色や白色は最も光線を反射する色であるから,此の花色のものは原生地では相当に強い日射下に自生していることが想像され,次が褐色花,桃色花,赤花種等,次が紫花系の順序で適当な遮光物の陰に生存していることが考えられるので,この事も考慮して日射を工夫すべきであろう。リトープスは白花,黄花系のみであるから,コノフィツムもタビ型の大型種の黄花のものは,リ属程度の日射下に置き,光線の反射し難い花色の品種になる程,弱目に扱うのが適当である。

朱整玉実生苗の脱皮
涼風の立ち初める頃,2〜3回の給水に依り灰色の旧皮をかなぐり捨てて,新しい成長に驀進する

 生長期には日射を強め,休眠期には明るい日陰で静かに休ませることは,リ属と同様であるが小型

種の休眠中の遮光は,より強めたい。生長期に日射が不足すると植体は間のびして品種の特徴の形や色彩を失うばかりでなく軟弱化して腐敗の誘因ともなるから,生長旺盛な晩秋から冬期は殆ど素ガラス下での栽培が望ましいのである。

 湿度はリトープスの冬型種程度で無難の様であるが,最低線を氷点で止めたい。夏の高温には,裸で休眠するリ属よりも相当に抵抗力が強い様である。

 用土はリトープスと同様でよいが,小形の丸鉢植の場合が多いから,粒状土の加用が効果的である。コノフィツムはリ属同様に根腐れは殆ど無いものであるから,或程度保水力のある用土を使って潅水の回数を少なくすることが賢明である。植替の最適期は,新らしく生長を始めた9月〜10月であるが生長期間中であれば随時行って差支なく充分効果あるものである。外国では数年に一回とも言はれているが,吾々は小形の鉢に植えて栽培しているので土中の肥料分も欠乏したり,根から出る酸の為用土が酸化のこともあり,それに排水の状態も悪くなっているので,年一回の植替は是非必要である。前述の様に生長期にはメザマシイ程の生長をするものであるから吾々は「新らしい生長は新らしい用土で」の心遣いを持ちたい。

典    待

    

角鉢に寄植した丸型の各種
豆粒大,指頭大の品種も,季節には花を咲かせ,楽しい生活のいとなみを見せている。

鉢から抜きとった株は,休眠中に枯れた細根や古土を丁寧に落して植え込むのであるが,若しも根虱の付いているものがあれば薬剤ヘプター粉剤の散布を忘れてはならないし又枯れた旧皮の除去や株分けするものの切り取り作業も此の際併せ行うことが便利である。枯れた旧皮は大群生株には或程度付いているのも雅味あるものであるが,下部の内側に溜まった水が乾きにくいものであるから一般的の観賞上からは取り除いた方がよい。植え方は,コノフィツムは大体浅根のものであるから,勉めて浅植とし,立型のものは球体が倒れない様に小砂利を敷いて支える様にする。増殖は実生と株分けとの二方法に依る。コノフィツムは女仙中で一番分球のよい属であるから,株分挿し木に依る増殖が一般的である。時期は生長の初期9月が最適で,挿した球は2週間内外で簡単に発根するが,時期が遅れると品種に依っては発根が甚だしく遅れるものであるから適期を逸せぬ事が肝要である。リ属では極めて特殊の場合の外は株分けは行はぬものであるが,コノフィツムは余り多頭になると分球率が悪くなり,限度に達すると殆ど分球しなくなり又形も小さくなるし品種に依っては球が甚だしく細長くなったり,群生の形が乱れたりすることもあるから,此の様な場合は適当に切り離して挿し木した方がよい。又特に増殖を望む場合は最も分球率のよい教頭株での栽培が有利である。

 群生の限度は品種に依り又栽培にも依って異なるが横して小型種は多頭,大型種になる程頭数は少なく,著者の経験では初音,中納言等でも200頭位が限度,式典が40頭位,桜貝,舞子等も30頭位になると殆ど増球しないものであるから,下部の球を適当に切り取ってやると残った球は又増球し,いつも整つた群生美を持続させることが出来るのである。

神    鈴
全体白色のウブ毛に包まれ,割目の両横に赤色を現した美しい品種

 株分けは植替の為に鉢から抜き取った時に行うのが好都合である。切離つべき球は一応和裁用鋏様のもので切り取り,更に今一度安全カミソリで切り直すのである。小型のものは2頭3頭のままを挿してもよいが,タビ型で分球したばかりのものを一頭づつに切り離すことは勉めて注意深く行はねばならない。切り直す場所は球体に最も近い部分がよいのであるが切断の時その部分の組織を損傷すると発根が困難になるから細心の注意が必要である。切離した球は数日間陰干しして清浄な川砂に挿せば間もなく発根するから普通の用土に植替えると旺盛な生長を始める。

 実生は種子を得るのに品種に依り困難がある。コノフィツムはリ属と同様に自花,自家共に殆ど受粉しないものであるから採種には同品種の別の実生株が是非必要となる。然し乍ら吾国に在る株は一つの株から株分けで増殖されたものが諸方面へ分散している場合が多いのでせっかく他から求めたものと交媒しても一向に結実しないことが多く,分球のよい丸型種には特にこの例が多い。タビ型やクラ型のものでは内地実生の成球で入手出来るものもあるから,自分の手で媒助,採種して実生を行うのは楽しいものである。

 媒助に際してはリ属と同様に純正度を見定めてから行う園芸的良心を高揚すべきで,雑交は厳に戒むべきである。 実生の方法や時期はリ属と同様でよいが,苗の生長は遥に遅く,タビ型種でも満1年位は丸く,2年で中筋が盛り上がり竜骨の赤線が1本現れてくる程度,3年目でようやくタビ型らしくはなってくるが,特徴の形になるのには更に2年位を要するが,株分けして挿し木すると比較的早く特徴の形となるものである。

 分球は早いものは3年目頃から始めるが此の程度の苗では品種の判別困難のものもある。

蛍  光  玉
蛍光色の肌に,濃緑色の線模様が走っている。花は夜開で芳香がある。

若    水
渡辺さんの命名,遺愛種の一つ

 この様にコノフィツムの実生は他のものに比して捗どらぬものであるが静かに観察し乍ら実生苗と共に過ごす年月は楽しいものである。実生から開花までに5年,完成株に育て上げるには更に5年位を要するのであるが,園芸家は多くの場合5年〜7年と待たねばならないものであり,こうした園芸家には神様から特別に寿命の割り増しもある様であるから誠に心強いことではある。

 実生苗は甚だ小さいものであるから2年位の間は乾操させない様に,いつも適度の湿潤を保たせて置く必要がある。3年目頃から普通苗の扱いに切替て行くのがよい様である。

健康に育ったコノフィツムは殆ど病気らしい病気には冒されないものであるが特に過湿の状態が長く続くと球の下部から腐る事もあるが前に述べた小砂利の敷きつめに依って或程度は防げるものである。又土湿や気温が高く日射不足の場合糸状菌に冒されることがあるが,これには農薬ファイゴンが有効である。タビ型のもので肌に黒褐色の斑点の出る病気があるが,原因も防除法も現在の処不明とされている。辛なことに此の病気は伝染もしないし斑点の拡がることもない,然し何回脱皮しても多少共斑点の残る処を見ると彼等はこれから完全に脱れることは出来ないものの様である。

右  大  臣
 紫緑色の鮮明な太緑模様が美しい変丸型種。

 害虫は前述の根虱の外に球体に赤ダニのつくことがあるが,防除剤としてはアカール又はサツピラン等が広く用いられている。

明  窓  玉
うす紫の美花を咲かす愛らしい小形の鞍型種

ポールエバンシー
稜線は濃い赤色で描かれ,背面にも赤線を現すことがある


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